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「いらっしゃい」 「熱燗と大根、はんぺんも」 「はいよ」  直ぐに湯気のたったおでんが目の前にやってくる。背中が寒い。アツアツの大根に齧り付いた。あぁ……出汁がしみて旨い。 「はい、熱燗」 「ありがとう。はふ。大根、美味いわ~」 「他も美味いですよ」 「あははは」  背中を丸めた無言のサラリーマンをよそに、屋台の親父と話していると、隣のサラリーマンが急にこっちを向いた。 「?」  思わず俺も隣を見た。  知らない顔だ。細い顎、白い顔、細いフレームのメガネ。黒目がちな目を見開き、上品な形の小さな口をポカンと開けてる。男臭い屋台なんて不似合いな感じの、俺より若い男だった。あんまり至近距離でマジマジと見つめてくるから「酔ってるのか?」と思いつつ首を傾げた。 「あの……何か?」 「もしかして、麻木さん……ですか?」 「え……そうです、けど……」  やばい。仕事関係の人間か?   頭をフル回転させる。でも間違いなくこの顔は初めてだ。派手ではないけど、きれいな顔。陶磁器のように滑らかな肌といい、この顔なら一度会えば忘れないと思う。  誰だ? 誰だっけ?
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