467人が本棚に入れています
本棚に追加
「本当に……いいの?」
「うんうん。狭いけど、上がってくらさいよ~」
「お邪魔します。お……」
「ん?」
「あ、ううん」
屋台のおでん代を俺が払うと、静谷君は「いいんですか? ご馳走様れす」とヘコヘコと頭を下げた。そして「お礼に飲み直ししましょう」とアパートへ招待されてしまった。
これまた偶然だったのだけれど、静谷君と俺は同じ駅を利用していた事も判明。電車の方向は違うのだけれど、住んでいる地域は同じだったのだ。
それに白猫とうちの会社では始業時間も違う。今まで駅で見掛けなかったのは当たり前かもしれない。
「もっと話したいじゃないれすか。せっかく会えたんだし。でもあそこはもう寒くて……」
「あははは。長居はできないね」
「どぞ、あ、このスリッパ。新品なんで使って下さい」
「ありがとう」
スリッパに足を入れて奥を見る。独身男性の一人暮らしだというのに、とても綺麗だ。ゴミ袋や空のペットボトルすらない。
「エアコン点けてと……狭くてごめんなさい。でも、直ぐにあったかくなりますから」
「あははは。そうだね」
通されたワンルームもゆったりとくつろげる空間になっていた。草色の大きなソファを見て「やっぱり」と思う。
「麻木さん、コートと上着掛けますよお」
「あ、うん。ありがとう」
「座ってて下さいねぇ」
静谷君はコートをハンガーに掛けて入口の横にある作り付けのクローゼットへしまうと、俺のコートも上着もクローゼットへしまってしまう。チラッと見えたクローゼットはガランとしていた。
あんまり物を溜め込むタイプではないのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!