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「タオルこれ使って下さい。お風呂はシャワーでごめんね? お礼に背中流します」 「ぶっ! ほ、ほへは……」 「冗談です。着替え用意しておくから、ハミガキ終わったらお風呂行って下さい」  静谷君は鏡越しにクスクスと笑いながら部屋へ戻ってしまった。  冗談なのか……良かった……。  口を濯ぎ、見当をつけて隣のドアを開ける。脱衣所らしき部屋。当たりだ。ってことは、こっちはトイレか。  トイレを済ませ、シャワーをする。頭を洗いながら「変なことになった」と繰り返し考える。でも、「やっぱり家へ帰る」とは言えない。今更言えない。  添い寝するだけ。添い寝するだけ。静谷君は精神的に落ち込んでいる様子だし。  風呂から出ると、脱衣所には長袖Tシャツとスウェットが置いてあった。ビニール袋に入ったままの新品のパンツまである。もしかして、俺がシャワーをしてる間に買いに走ったのかもしれない。  有り難く新品のパンツを履き、Tシャツも広げて気づいた。折り目がついている。これも新品だ。  なんだか申し訳ないな……。  長袖Tシャツに袖を通しスウェットを履く。タオルでよく髪を拭いて部屋へ戻った。 「おかえりなさい」 「あ、うん。お先です」  静谷君はソファの上で膝を抱え、薄暗い部屋でテレビを観ていた。立ち上がると「直ぐに出ます。眠かったら先にベッドへ入ってて下さい」と部屋から出ていく。  俺は同じようにソファに座り、髪の毛をゴシゴシしながらボーッとテレビを観た。  静谷君は本当に直ぐに戻ってきた。十分も経たないうちに部屋のドアが開く。  テレビからの明かりで気づいた。  俺を見て、静谷君はホッとした。  居なくなっているかもしれないって、考えてた? 俺が黙って帰るかもって?  その子どものような素直な表情を見て、肩の力が抜けた気分になった。
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