467人が本棚に入れています
本棚に追加
「タオルこれ使って下さい。お風呂はシャワーでごめんね? お礼に背中流します」
「ぶっ! ほ、ほへは……」
「冗談です。着替え用意しておくから、ハミガキ終わったらお風呂行って下さい」
静谷君は鏡越しにクスクスと笑いながら部屋へ戻ってしまった。
冗談なのか……良かった……。
口を濯ぎ、見当をつけて隣のドアを開ける。脱衣所らしき部屋。当たりだ。ってことは、こっちはトイレか。
トイレを済ませ、シャワーをする。頭を洗いながら「変なことになった」と繰り返し考える。でも、「やっぱり家へ帰る」とは言えない。今更言えない。
添い寝するだけ。添い寝するだけ。静谷君は精神的に落ち込んでいる様子だし。
風呂から出ると、脱衣所には長袖Tシャツとスウェットが置いてあった。ビニール袋に入ったままの新品のパンツまである。もしかして、俺がシャワーをしてる間に買いに走ったのかもしれない。
有り難く新品のパンツを履き、Tシャツも広げて気づいた。折り目がついている。これも新品だ。
なんだか申し訳ないな……。
長袖Tシャツに袖を通しスウェットを履く。タオルでよく髪を拭いて部屋へ戻った。
「おかえりなさい」
「あ、うん。お先です」
静谷君はソファの上で膝を抱え、薄暗い部屋でテレビを観ていた。立ち上がると「直ぐに出ます。眠かったら先にベッドへ入ってて下さい」と部屋から出ていく。
俺は同じようにソファに座り、髪の毛をゴシゴシしながらボーッとテレビを観た。
静谷君は本当に直ぐに戻ってきた。十分も経たないうちに部屋のドアが開く。
テレビからの明かりで気づいた。
俺を見て、静谷君はホッとした。
居なくなっているかもしれないって、考えてた? 俺が黙って帰るかもって?
その子どものような素直な表情を見て、肩の力が抜けた気分になった。
最初のコメントを投稿しよう!