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「おかえり」
「……ただいまぁ」
静谷君が小さな声を返す。俺はソファの上のリモコンを取り、テレビを消した。
「寝ようか」
静谷君を待たず、ベッドへ潜り込む。仰向けで目を閉じた。
「…………」
静谷君は無言で、おずおずと隣へ潜り込んできた。
「おやすみ」
「……うん」
隣の気配。起きている事は分かっていた。俺も眠れそうにない。天井を見つめ、目を閉じて低い声で言った。
「なんにも出来ないと思うけどさ、良かったら教えてくれない?」
「……なに、を?」
「話したくないなら話さなくていいんだけど。吐き出しちゃった方がラクになれる時もあるからさ……」
静谷君は少しだけ体を寄せてきた。肩にまたコツンと当たる額。
「いいんです。こうやって一緒にいてくれるだけで。ありがとうございます」
小さな声。冷静な声に聴こえる。でも息遣いで、静谷君がひっそり泣いているのが分かった。俺は仰向けだった体を横向きにして、そっと離れた静谷君の体を引き寄せる。
「あ、さ……」
「大丈夫。そっち系じゃないから」
そっち系どころか、男に腕枕をするのも初めてだ。華奢だとは思ったけど、本当に細い。
背中を撫でながら、静谷君の頭に顎をくっつける。
「泣くのもストレス発散のいい方法だから。思い切り泣けばいいよ。内緒にしとくから」
どこかに罪滅ぼしの気持ちもあったのかもしれない。
あと一ヶ月足らずで、白猫を切ってしまう会社の方針を不満に思っていながら、何も出来ない自分に対して。仕方ない事だと、自分は会社の一歯車に過ぎないと、憤っていたし……痛感していたから。
静谷君の涙の理由は分からない。でも、今だけ。黙って寄り添う事で、静谷君の気持ちがラクになるなら。なにも出来ない自分に唯一やれる事。
俺は黙ったまま、静谷君の背中を静かに撫で続けた。
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