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「俺も、昨日は飲みたい気分だったんだよ。だからありがとう」 「え……本当ですか? でも、飲めなかった……ですよね」  ちょっと目を丸くして背筋を伸ばし、またションボリと背中を丸め肩を落とす。ベッドから足を下ろし、俯いている静谷君の頭をポンポンと叩いた。 「飲みたかったと言うか、なんだろうなぁ。人恋しかった。というべきかな。だから丁度良かった。抱き心地も抜群だった」  立ち上がった俺を「ちょっ!」と叫んで見上げる静谷君。きっとまた真っ赤になっているに違いない。 「あははは。トイレ借りるよ~」 「あ、はい。どうぞ……」  情けない声。笑いを堪えるのが大変だ。  トイレを済ませ、歯磨きをしていると静谷君が後ろにやってきた。 「あの、麻木さん。お詫びと言ってはなんですが……モーニング行きませんか? 奢らせて下さい。えっと、あの、昨夜はおでんご馳走になっちゃったみたいだし……」  ガシガシ磨きながら振り向くと、静谷君は両手にタオルをギュッと握り、上目遣いで俺を見ている。目を細めて「うん」と大きく頷きながらタオルを受け取ると、静谷君は嬉しそうな顔になった。  静谷君のアパートから歩いて三分の喫茶店は、俺もたまに利用した事のある喫茶店だった。  休みの日に偶然ここでバッタリなんて事もあったのかもしれないんだな。と思うと楽しい気分になる。  最寄の駅が同じだし、三年前から住んでいる地域も同じだと分かると、静谷君も驚いていた。  その表情に昨夜の悲しい影はない。  無理をしているようにも見えない。  それでも元気付ける言葉を贈りたくて俺は伝えた。
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