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「え、辞めた……?」  電話の向こうで新しい担当だという男がペラペラと喋っていたけど耳に入らなかった。 とりあえず集荷のサイズと数量を伝える。  受話器を置いて早退届を書き殴ると、そのまま部長のデスクへ近づいた。 「緊急の所用が出来たので今すぐ帰りたいのですが」 「……お、おう。分かった。気をつけて」  俺の気迫に押されたのかポカンとした顔から、深刻そうな表情を作り頷く部長に「後はお願いします」とオフィスを後にした。  アパートまで走りながら後悔していた。  やっぱりちゃんと話を聞くべきだったんじゃないのか? 俺に出来る事は、あったんじゃないのか?  アパートに行ってみると、部屋の玄関が開いていた。良かった間に合った。ホッとして玄関へ近づくと、出てきたのは見知らぬ年配の男性だった。俺を見て眉を上げる。 「ああ、静谷さんのお友達? 静谷さんなら昨日、引越しされましたよ」 「え、どこへ……」  俺の質問に大家さんは怪訝な顔をした。 「友達なら、連絡取ってみたらどうですか? わしから教える事はできんよ」  俺は大家さんに「ちょっと見せて下さい」と断り部屋の中に入った。それから血相を変えた表情で大家さんへ言った。 「家具が無くなってる! ここにあった棚も、ソファも、あの草色のソファは三十万もしたんですよ! 警察に電話します! 盗難届け出さなきゃ! あ、この部屋も指紋が残っているかもしれないから触らないで下さいよ! 携帯も通じないんです! あなたが教えてくれないなら、警察に連絡するしかない!」  大家はますます嫌そうな顔をした。 「ちょっと、ちょっと、そんなゴタゴタに巻き込まれるのは勘弁だよ。新しい入居者だって決まってるんだから。パトカーで乗り付けられるのも困るし……。それに引越し先の住所なんて知らんよ」  なんてこった。こんなことなら静谷君とアドレスの交換をしておくんだった。こうなったら引越し業者に当たる? いや、冷静に考えれば白猫へ電話した方が早いんじゃないか? でもなんて説明すりゃいいんだ? 緊急事態? どんな?  グルグル考えていると、大家が思い出したように「あ」と声を上げた。 「そういえば、郷里に帰るって話だったかな? ちょっと待ってなさい。それなら分かるから」 「ホントですか! 助かります!」
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