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「それで、わざわざ……?」  広々としたリビングの真ん中に置いてある、大きな木のテーブル。淹れたてのコーヒーの美味しそうな香り。でも、俺は顔を上げられず、コーヒーを見ながら頷くのに精一杯だった。 「先週会った時に、様子がおかしいなって思っていたのに……なんにも出来なかったなって。そう思ったら……」 「ごめんなさい。麻木さんのせいじゃないのに」  静谷君は俺の横に座り、トレーを胸に抱えたまま、ペコリと頭を下げた。 「むしろ、麻木さんにはお世話になったのに、辞めるって言い出せなくて……余計な心配掛けちゃって」 「いや、いいんだよ。静谷君の決めた事だし……だから、そんな謝る必要は全然ないんだよ」 「でも、心配してわざわざここまで来てくれたでしょ?」 「……うん、まぁ」 「嬉しかったです。凄く。麻木さんはいつも僕の欲しい物をくれる。神様みたいな人です」 「へ……? そんな、大げさだよ」  神様?  突拍子もない言葉に顔の前で手をブンブン振ると、静谷君は「ふふふ」と微笑んだ。その笑顔はとても嬉しそうで、土曜日に最後に見た笑顔とは違ってみえた。  その微笑みをこの目で確かめられただけで、ここに来て良かったと思えた。  そんないい顔で笑えるんだ。  この引越しはきっと、静谷君にとってプラスになっているんだよね?
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