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 俯いたまま、小さく丸まる背中。俺は何も言えず、静谷君の肩を抱くとそっと引き寄せた。静谷君は胸に顔を埋め肩を震わせた。あの夜と同じように。  静谷君の背中を撫でながら慰めの言葉を探したけど、そんなに深い心の傷……。うまい言葉が見つかるはずも無かった。  やっぱり、俺には何も出来ないのかと思った。 「ごめんなさい」  しばらくして、静谷君は鼻をすすりながら顔を上げた。 「大丈夫かい?」 「はい。やっぱり麻木さんは神様みたいな人だ」 「え? いや、だから。俺、何もしてないし……」  静谷君はプルプルと顔を横に振って、また胸に顔を埋めた。今度は泣いている感じではなかった。 「僕は東京へ戻った。何のために生きてるんだろう。ってずっと考えてた。そしてある日、街をフラフラしていて、このソファに出会ったんです」 「…………」 「ウインドいっぱいに飾ってありました。黄色の花が敷き詰められてた。春の日差しに照らされて、このソファに座っているだけで幸せになれそうな気がした」 「……そうだったんだ」 「凄く可愛いと思った。一目惚れだった。一瞬、嫌な事を全部忘れた。でも値段は可愛く無かった」 「ははっ」  思わず肩を揺らして笑うと、静谷君は嬉しそうに顔を上げた。 「笑い事じゃないよ。ソファに三十万円。絶対買えないと思った。でも絶対欲しいと思った」 「うん。……ありがとう」
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