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「僕は生まれて初めて衝動買いをしちゃったんです。ATMでお金を下ろしてそのまま、そのお金をお店に渡すっていう……」
「思い切ったことをしたね」
「ほんとですよ」
静谷君は鼻をすすりながら、楽しそうに続けた。
「そのお店のオーナーはこのソファが一点ものだと教えてくれた。そして作っている人の事も教えてくれた。もらったチラシには麻木さんの名前と写真、略歴が載っていた」
「ああ、だから……」
「SOICHIRO ASAGI……って、たしかローマ字だった。名前もカッコイイって思った。アーティストとしての名前なのかもしれない。とか色々考えた」
「あははは……」
「まさか、普通のサラリーマンをしているなんて夢にも思ってませんでした」
「はは……」
どこから話していいのか。頭の中を整理していると静谷君が言った。
「あ、話が脱線してごめんなさい。でね? アパートにソファを置くために部屋を掃除したんです。スペースも確保しなくちゃいけなかった。配送業者もワンルーム用のソファじゃないだろうって顔してました。ふふふ」
「確かにね」
「でも元々……空っぽの部屋だったんです。だから、凄く嬉しかった。部屋も明るくなったし、帰ってくると気分も上がった。このソファが似合う部屋にしなきゃって」
「へー……」
「ソファは最高でした。座り心地も、デザインも。それに目標もできた」
「目標?」
静谷君は白い棚を指差して言った。
「うん。次はあの棚を玄関に置きたい。って絶対に買うって思ってました」
「あははは……そうなんだね。買ってくれてありがとう」
「僕こそ、ありがとうございます」
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