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 麻木さんの読み上げるサイズと数字をパソコンに入力していく。  白猫急行は運送会社だ。主に近距離の集荷と配達がメイン。市内に一店舗は必ず配送センターがあるのだけど、丸沢物産はその中でも大手のお得意さんだった。  丸沢物産は通販会社だ。通販会社の中では老舗に入るんじゃないだろうか。安全と、速さと、確実さをモットーにしている我が社とはもう十数年の付き合いらしいけど、その歴史に甘んじてはいけない。と僕は思ってる。  なので日々、丸沢物産の麻木さんとのパイプをせっせとね。こうやって繋いでるわけ。  何しろ丸沢物産からの集荷配送依頼は朝八時、十時、午後一時、午後三時、翌日分の最終五時と頻繁にある。それだけの顧客だもん。大事にしないとね。  本来ならデータを送ってくれれば事足りる。そういう時代だしね。でもコンピューターは万能じゃない。一度バグが起きた時、データがめちゃくちゃになって大騒動になったことがある。それからはこうやって麻木さんから電話が来るようになった。もちろんデータはデータとして送られてくるんだけど、僕の入力した数値と合っているかのチェックをして、相違無ければ集荷グループへデータを送る仕組みになっている。  この段取りにしてから、集荷ミスは格段に減った。一手間だけど、確実。その手間を惜しまない麻木さんを僕は尊敬している。  とは言っても、実際に麻木さんにお目にかかったことはただの一度もない。  集荷に行く人間は勿論僕じゃないし、荷物を渡す人間も麻木さんではない。毎日、毎日、電話でこうやって会話するだけの関係。  だからこそ、この電話が大事なんだよね。
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