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「私は温泉に泊まるつもりでいたよ。森永くんも一緒に泊まれたらよかったのに」
え、え、今なんて?
凍りつく僕の肩をぱしっと叩いてユリアは笑った。
「ごめん! 冗談! やー、もう酔っぱらっちゃってわけわかんなくなってるわ、私。雅紀ちゃんも疲れて帰ってくると思うし、怪我もしてるし。ここは早めに抜けたら?」
真っ赤な顔。酔っぱらってるのか、それとも……本気だったのかな。明るい笑顔を向けられて、思わず頭を下げる。
「ご、ごめん、その、えーと」
なんだかわからないけど、モヤモヤとした気持ちが渦巻く。ユリアが凄く性格のいい、かわいい女性なのはわかる。
ときめかないか、と言われたら嘘になるし。本当に悪い気はしないけど、そう思うこと自体が不誠実な気がする。
「恋って難しいね」
くつくつと煮える鍋の火を消しながら、ユリアがぽろりと言った。
◇
みんな帰り道や自宅の心配をして、忘年会は予定よりも早く終わった。
吹雪はすべてを埋め尽くす勢いで吹き荒れており、駐車場ではみんな、マフラーの内側からくぐもった叫び声をあげていた。
「ちょお! なまらしばれるなあ!」
「さびぃさびぃ!」
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