1、卵色の家

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「あ、金がない」  はた、と気づいた。手持ちの現金があまりない。飛行機に乗る前にATMに寄りそびれたので、切符を買ったり、食事をしたりして、財布には1万円弱。  現金を手に入れなければ。  GoogleMAPで調べることにする。  最後に画面を開いた新千歳空港から、ぐいーんと北へ移動して、ここ恋幌町。  ……のはずが、現在地を示す赤いマーカーの周りは、一本グレーの道路が走っているだけだ。周囲は緑色。  あれ? ここ、どこなんだ。 「OKグーグル。一番近い、みずほ銀行」  音声認識を使う。ぐいーん、と地図が縮小されて、 「……どこ、ここ」  隣の市だろうか? 嫌な予感に包まれて、経路検索をぽちっと押すと賢いグーグル様は、 『車で35分』  と回答した。  車って……。  窓の外を見る。雪をかきわけて、まず公道に出るまで5分はかかりそうだ。タクシーなんて、一年待っても通らなそうな道に、ひゅうひゅうとつむじ風が粉雪を巻き上げている。 「異世界過ぎる」  金が無ければ買い物ができない。  車が無ければ遠出も無理。 「ほんと、何にも考えてなかった…」  直営のATMがダメなら、コンビニはどうだ。調べると、町の中に一件、大手のコンビニがあるらしい。ATMも設置されていて、なんとか現金は手に入りそうだ。  町の中心までは徒歩20分。 「……歩くか」  考え付く限りの厚着をして、表へ出る。
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