1、卵色の家

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 風は強いが晴れている。  てくてくと、何もない道を歩いていく。木立の向こうに、夏は草原だったであろう雪原が広がり、さらにその先に雄大な山脈が白く聳えている。 「すげー」  なんて山なのかわからないが、左右対称に広がる裾野が美しい。  見とれていると、クラクションが鳴らされた。  ピンク色の軽自動車の窓が開き、 「こんにちは、もしかして、東京から移住してきた人ー?」  20代くらいの女性が顔を出した。後部座席にもふたり、女性が乗っている。くすくす笑いが聞こえるところから、家族か友だち同士らしい。 「あ、あ、はい」 「どこ行くの?」 「えと、コンビニ、です」  何がおかしいのか、うふっ、と笑われる。 「乗ってく? もうすぐ天気荒れるよ」  はっと、空を見上げると、キレイな青が灰色がかり、(にび)色に変わっている。 「大丈夫。この子、町長の娘だから」  後部座席の女性も手招きする。彼女の母親くらいの世代だ。  お言葉に甘えて、助手席に乗せてもらう。  車だと、5分もせずに町に入る。 「な、なんで僕が、移住者だってわかったんですか?」 「だって、ねえ」  ミラー越しに家族と目で笑う。 「そんな恰好で歩く人、こっちの人じゃいないですよ」  コートにショートブーツ。加えてマフラーぐるぐる巻き。結構防寒したつもりだったのだけど。 「帽子、買ったほうがいいですよ。あと、スキーウエアみたいなやつ」  車に関しては、レンタカーをしばらく借りるか、バスの時刻表を入手し、1時間に1本の便をつかまえればいい、と教えてもらった。  僕の資金力を考えると、後者しか選択肢がない。  礼を言って別れる。  北国生活は思ったよりも、経済的に厳しそうだ。
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