1、卵色の家

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 ◇  バスで帰宅することを話すと、寝具店の人が好意で布団を配達してくれることになった。  家からATMが遠すぎるので、現金は口座から全額引き出した。  封筒に入った残り32万2千円が全財産。  駅に近い生協まで足を伸ばして、食料と生活用品も買う。  特売日でないせいもあるけど、物価が微妙に高い。    バスを降りて、家までは、例の何もない雪原の中の道を歩くしかない。5分もかからないけれど、町長家族の言った通り、空が暗く、風が強くなり始めた。  青と白銀の世界から一転、薄暗い鼠色の世界へ。  寒風に吹かれる耳が痛い。 (帽子、買い忘れた)  卵ハウスが見えてきた。 (あれ、なんだろう)  雪に逆らうように、黒い煙が家の後ろから立ち上っている。 「か、火事?!」  心臓がどっくん、と波打つ。荷物を道に投げ捨てて、雪道を走り出すが、外出したときの倍以上の深さに足をとられて、見事に転んだ。 「ちょ、えっと」  ポケットに入れていたスマホを取り出す。消防車、消防車! 「のわあっ」  GPS入れっぱなしだったせいか、電池切れ。真っ暗な画面に映るのは、毎度おなじみ洟をたらした冴えない僕。 「火、火! 消さなくちゃ」
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