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マジで住むところがなくなる。スマホはあきらめて、火元へと急ぐ。こけつまろびつ、家の裏側へ回り込むと、
「おかえりー」
パチパチと火のはぜる音と共に、呑気な声が帰ってきた。
スッと立っていたのは水川雅紀。
その奥に、レンガで作られた丸っこい暖炉……いや、かまどというのだろうか。そこから伸びる煙突から、黒々と吐き出される煙が、僕の見たものの正体だった。
「え、なに、これ」
「かまどー」
もさもさと降りしきる雪を物ともせず、雅紀は軍手でカマドの鉄扉を開けた。
勢いよく、赤と黄色の炎の舌が揺らめいている。
「ごはん作ろうと思って。もしや、火事かと思った?」
もしや、もしやー、とニヤニヤ笑う。清冽な印象が氷解した。
想像していたよりも、フランクで変な女。
「な、なんで外? 中にガスコンロ、あった、と思うんですけど」
地獄のようにゴウゴウ燃える火で、何を調理しようというのだ。
「ガスねえ、届いてないっぽくて」
「ガスって届くとか、そういうもんなの?」
「ほら、あそこ。あそこにないでしょ、プロパンの……缶? っていうの?」
卵色の外壁に取り付けられた、高さ130㎝ほどの縦長のブリキ箱を差す。
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