1、卵色の家

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 プロパンガスって、あれか。田舎を舞台にした映画とかで、家の外についてる銀色の。 「ガスボンベ」 「それそれー。なんか、前の人たち使ってなかったんだって。このかまどか、電気だったんだって」  くすんだ黄色をしげしげと眺める。変わり者に縁のある家なのだろうか。 「私は電気、最低限しか使いたくないから、昼はこれでいいかなーって」  いやいや、調理場所が寒すぎだろ。 「何、作ってんの」 「今、火力調節中」 「そもそも、薪とかあったの」 「それは、残ってた」  ガスを残して欲しかった。  ガスを残して欲しかったです、大家さん。 「あ、自己紹介、忘れてました」  火掻き棒を、ひゅうっと中空に振りながら、雅紀が言った。 「そちらから、どうぞ」  と手を差し出す。忘れてたと言いながら、相手から自己紹介させるのか。  ほんと、変わってる。 「森永、翼です、す、好きな食べ」 「水川雅紀です」  よろしく、と言う彼女の背中に、ぶくぶくと言葉が溢れ返る。  自己紹介って、名前だけじゃなく、いろいろ言うものなのでは。  ていうか、僕が好きな食べ物とか言いかけたのに、かぶせて自分の名前、言うか、普通。  なんか、興味ないみたいで嫌でしょ、そういう態度。    ねえ。  ねえ。     
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