2、ふっこうよさん

2/8
89人が本棚に入れています
本棚に追加
/371ページ
☆  昨日、かまどで焼いた焼リンゴの昼食のあと、寝具店のおじさんが布団を届けにやってきた。 「布団、一組でいいの?」  きょとんとした顔で問われて、僕は雅紀にどうするか尋ねた。もし、必要なら今頼んでしまった方が楽だ。  すると、彼女は部屋の真ん中で何かの雑誌を読みふけりながら、 「いらない。私はしばらく寝袋でいい」  と返答した。『しばらく』って、いつまでなんだろう? 「えっと、布団は大丈夫みたいです」 「そうかい? 女の人のほうは、もう何か持ってきてんのかな?」 「……ね、寝袋、だそうです」  優しそうなおじさんだったので、ついでにガスのことを相談すると、息子さんの同級生が勤めているそうで、夕方までに運ぶよう話をつけてくれた。 「かまど料理を楽しみたかったのに」  土鍋をガスコンロにかけながら、雅紀はちょっぴり不満そうだ。彼女の価値観が世間一般から大きくずれていることは、もう間違いなかった。  鍋の中身は白米。 「はじめちょろちょろ、だっけ」  小さいころ、保育園のままごとでそんな歌を繰り返していたような気がする。 「違う。ふっこうよさん」 「復興予算?」 「沸騰から5分後まではずっと強火。それから4分、弱火」 「えーっと、さん、は3分強火?」 「3()。最後に強火。それから少し蒸らすの。やったことないの? 米炊けなきゃ死んじゃうでしょ」 「いや、炊飯器買うし」 「はあ?」  こんこんと説教が始まった。  電気を使える状況が、当たり前と思ってはいけない。化石燃料を燃やす火力発電が、どれほど地球環境にダメージを与えたか。温暖化の影響で海面は上昇、骨と皮になったシロクマが絶滅寸前の危機に(ひん)している。 「水川さん、て原発推進派?」  イデオロギー(主義主張)の違い次第では、あまり討論しない方がよさそうだ。
/371ページ

最初のコメントを投稿しよう!