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昨日、かまどで焼いた焼リンゴの昼食のあと、寝具店のおじさんが布団を届けにやってきた。
「布団、一組でいいの?」
きょとんとした顔で問われて、僕は雅紀にどうするか尋ねた。もし、必要なら今頼んでしまった方が楽だ。
すると、彼女は部屋の真ん中で何かの雑誌を読みふけりながら、
「いらない。私はしばらく寝袋でいい」
と返答した。『しばらく』って、いつまでなんだろう?
「えっと、布団は大丈夫みたいです」
「そうかい? 女の人のほうは、もう何か持ってきてんのかな?」
「……ね、寝袋、だそうです」
優しそうなおじさんだったので、ついでにガスのことを相談すると、息子さんの同級生が勤めているそうで、夕方までに運ぶよう話をつけてくれた。
「かまど料理を楽しみたかったのに」
土鍋をガスコンロにかけながら、雅紀はちょっぴり不満そうだ。彼女の価値観が世間一般から大きくずれていることは、もう間違いなかった。
鍋の中身は白米。
「はじめちょろちょろ、だっけ」
小さいころ、保育園のままごとでそんな歌を繰り返していたような気がする。
「違う。ふっこうよさん」
「復興予算?」
「沸騰から5分後まではずっと強火。それから4分、弱火」
「えーっと、さん、は3分強火?」
「3秒。最後に強火。それから少し蒸らすの。やったことないの? 米炊けなきゃ死んじゃうでしょ」
「いや、炊飯器買うし」
「はあ?」
こんこんと説教が始まった。
電気を使える状況が、当たり前と思ってはいけない。化石燃料を燃やす火力発電が、どれほど地球環境にダメージを与えたか。温暖化の影響で海面は上昇、骨と皮になったシロクマが絶滅寸前の危機に瀕している。
「水川さん、て原発推進派?」
イデオロギーの違い次第では、あまり討論しない方がよさそうだ。
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