2、ふっこうよさん

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 あとは前の住人が誂えた、黒革張りのレトロなソファしかない。    掛け布団……コートだな。  ソファの寝心地は悪くなかったけれど、いかんせん寒かった。  ひとつ屋根の下、この睡眠格差はいかがなものか。  ワインの飲み過ぎが原因だ。明日、酒量制限を申し渡そう。    もやもやとした苛立ちにさいなまれ、ようやく意識が薄らいできた明け方、ガサガサという物音で目が覚めた。 「おはようございまーす」  部屋から雅紀が出てくる。 「布団とっちゃってごめん。お詫びに、除雪してくるね」  キッチンに灯される明かりがまぶしい。水音と鍋が五徳に当たる音が響き、僕のかわいい睡魔を追い払う。  ご、ごり、ごりり、と何かをすりつぶす音まで聞こえ、 「?」  起き上ると、彼女がハンドル付きの小箱と格闘しているのが見えた。 「コーヒー、飲む?」  豆を挽いているらしい。恐らく、その道具も大家の残したものだろう。香ばしい香りが鼻孔をくすぐり、薬缶(やかん)の湯をドリッパーに注ぐ音も高らかだ。  ほどなく、『強制起床コーヒー』が二人分、ダイニングテーブルにコトリと置かれる。  布団にしていたコートを羽織って、彼女の向かいに座る。 「熟睡しちゃった」  照れ笑いの口元に、寝顔がフラッシュバックした。後ろめたい気持ちになって、 「あー……除雪、手伝います」  と申し出てしまう。一応男だし、力仕事を押し付けるわけにはいかない。  いかないんだけど、理不尽だ。  まじで眠いし。ああーもう!  やり場のない苛立ちのなか、顔を洗った。  着替えて表に出るとまだ暗い。  新雪にスノースコップを差し入れ、跳ね飛ばす。朝日が雪原を輝かすころ、がたがたの道が出来上がった。  雅紀が道から雪の中にダイブする。  朝日が白金に染める雪原に青い影を躍らせて、羽ばたくように何度も、何度も。  眠かったけれど、額を撫でる朝風の冷たさが心地いい。  無理やりな爽やかさに、僕は深い息をついて瞳を閉じた。
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