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運転席も、凍りつかんばかりに冷えていて、車内灯のほのかな明かりが、真っ白な息を照らし出す。フロントガラスに張り付いた粉雪は、ワイパーが動かないほど。慌てて降りて、見よう見まねでスノーブラシで払い落とす。
アルコールを控えていた人たちの車に飲んだ人が便乗し、連なって温泉を後にした。
みんながゆっくり走ってくれたおかげで、無事に卵ハウスに到着したけれど。
家の前には、雅紀の車がない。
まさか、まだ湿原センターにいるんだろうか?
吹き荒れる空の漆黒から、灰色の雪が次々と降り注ぐ。
ずももも、と変な音を立ててなんとか雪の積もった中、車を停めた。
玄関までの道は、膝下まで埋まるほど積もっている。
覚悟して降りると、スノーブーツの中までさらさらの雪が入ってきた。
玄関に入るまでに、強い風に何度もなぶられ、体中が雪まみれになる。
雅紀はちゃんと帰ってこられるだろうか? 湿原センターに迎えにいった方がいいかな? そわそわしながら、コートと濡れたデニムを部屋の中に干す。
カニ鍋でぬくもっていたはずなのに、今はつい腕をさすってしまうほど寒い。
先に風呂に入ろうかな。きっとそのうち帰ってくるだろうし。
着替えを用意して浴室へのろのろと移動する。しんとした家の中に、時折、ひゅうう、という風音と、びし、びし、と強風が窓を打つ音がする。
換気扇もカンカンと不穏な音を立て始めた。
「……なんで帰ってこないんだよ」
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