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独り言が口をついて出た。洗面台の前で鏡の中の自分と目が合う。
『お前に会いたくないからだよ』
せせら笑いが聞こえる。
『こんな吹雪の日に、わざわざ帰っても家にはお前がいてくつろげないだろう? 帰るのが嫌になったんだよ、彼女は』
そんなわけない。連絡もなく帰らなければ、僕が心配することくらい、わかるはずだし。
『心配? お前のことなんてすっかり忘れて、彼女は研究に熱中しているさ。お前だって、本当に心配なんてしているのか?』
どういう意味だよ。
『善人ぶってるだけだよ。どうせ誰も守れないくせに。本当に心配なら、電話をかけてみろよ。ほら。拒否されるのが怖くて、かけられないだろ? このまま、何もしなくても彼女が帰ってくるって信じたいだろ?』
そりゃ、無事に帰ってきてくれればいいに決まってる。
『だよな。彼女はタフだよ。お前なんかよりずっと。心配なんかバカバカしい。どうせ何もしないわけだし、早く風呂に入って寝ちまえよ。朝になったら、いつものようにコーヒー豆挽いてるさ』
アハハ、と彼は笑った。
僕は鏡に背を向ける。そうかもしれない。そうかもしれないけど。
強くなる風の音にどうしようもなく胸が騒ぐ。まるで小さな吹雪が、宿ったかのように。
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