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26、白い夜
迷いながら、僕は湿原センターに電話をかけた。
何度もコール音がなり続けるだけで、結局誰も出ない。もしかしたら、今、このタイミングで職場を出たのかもしれない。
雅紀の携帯にかけるのはさらにハードルが高く感じられた。すごく苛立った声で出られたらと思うと、気持ちがきゅーっと縮む。
でも、それ以外に取るべき手段はない。
勇気を出して彼女の番号を選び受話器マークをタップする。
ドライブモードになっているようで、やはり繋がらなかった。
(すれ違っても構わないから、湿原センターに行ってみるか)
吹雪いているとはいえ、道は単純だ。ゆっくり運転しても30分と少しで着く。わずかな疲れに目をこすりながら服を着替え、先ほど干したコートを再び羽織る。
迎えに行く旨を書き置きし、卵ハウスを後にする。
フロントガラスには白いホウキが叩きつけられるように雪が舞う。ひどく視界の悪い中、対向車とすれ違うこともなく湿原センターにたどり着く。
建物の周囲は完全に闇に閉ざされていた。車のライトを向けて初めて、寒々と広がる雪原の一部が浮かび上がる。
駐車場であるはずのその場所に、雅紀の車はない。
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