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◇
「今日は温泉で、ゆっくり考えてください」
田口さんが、苦笑いしながら連れて行ってくれたのは、町はずれの温泉街。小ざっぱりとした新築の旅館が今宵の宿らしい。
町役場側の手違いでシェアハウス相手が女性だった。
とはいえ、住居も就職も世話してもらっておきながら、強く苦情も言えない。
だからといって、女性と二人きりで風呂やトイレを共同で使う生活なんて耐えられそうもない。
どうにかして、水川雅紀から家を譲ってもらいたいけれど、彼女は僕と同居も辞さない構え。
なんでこんなことになるんだ。ぐるぐると迷宮に押しこめられた気分で座布団に突っ伏す。
どうすりゃいいんだ。
やっぱ、自力で家を探さなきゃならないのか。
その場合、家具家電も自腹だろう。
金はないし……。
想像するだけで、胃酸過多。
割り当てられた小さな和室のテレビをつける。札幌の駅前から、明日の道内の天気。雪。最高気温は氷点下6℃、最低気温は氷点下10℃。
画面の両端が切れた、見知らぬ温泉のCM。
気分が晴れるものは何一つ流れない。
思い切って電源を落とすと、真っ暗になった液晶画面に、ボサボサ頭の自分が映った。
「不細工」というほどでもないけれど「冴えない」には入る。
現実を突き付けられた気分になり、一層沈む。
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