1、卵色の家

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 そこへ内線が鳴った。 「森永さま、お食事、どうします?」  前置きも何もなく、尋ねられた。よく通る若い男の声だ。明るく、まるで朝日の光線を思わせる。 「あ、えと……どう、って」  明るさに戸惑って、また言葉が出ない。 「食堂でお召し上がりでいいですか? もう準備はできてるんですけど」  床の間に置かれた小さなデジタル時計を見る。18時半。  夕食という言葉に反応したのか、くうーっと腹が鳴った。 「い、行きます」  階下へ降りると、素朴ながら洒落たクロスのかかったテーブルに、新鮮な魚介の小鉢が並んでいる。 「森永さま」  どうぞ、と声をかけてくれたのは、すらりと背の高い、優しそうな顔つきの青年だった。つぶらなのに、キリっとした瞳がラッコに似ている。 「恋幌町に、移住されるんですってね。笠井旅館の4代目の康臣(やすおみ)です。観光協会だとか、イベントによく参加してますんで。宜しくお願いします」  鍋用の固形燃料に火をつけながら、にこにこと僕に話しかける。 「困ったことがあったら、ここに電話してください。いろいろ不便もありますから」  と、箸袋に書いてある旅館の電話番号を指した。
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