第一章『屋上』

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 僕は教室で一番、廊下側の列の前から四番の席にいて、いつものように誰からも話しかけられることなく座ったままだ。僕は、うつむき加減に重いため息を机に向かって吐きだした。この後、いつもなら僕は鞄から弁当を取り出し、そのまま一人で食べ、その後は本を読んで昼休みの残り時間をやり過ごす。  でも今日、僕が鞄から取り出したのは弁当じゃなかった。僕が鞄から人知れず緊張感を持って取り出したのは封筒だった。それはごく普通の白い封筒で、わざわざ文房具屋までいかなくても、どこのコンビニでも買えるヤツだ。実際に僕が買ったのも家の近くのコンビニだった。  封筒の中には昨日の夜、おそくまでかかって書いた僕からこの世界に対しての最後のメッセージ、つまり遺書が入っている。僕が人知れず緊張感を鞄から取り出したのは当然だ。遺書をしたためた手紙をリラックスして落ち着いた気分で取り出せるヤツなんて普通はいないだろうから。  そして僕は封筒をズボンのポケットに突っこんで立ち上がる。僕が教室を出て向かおうとしたのは屋上で、目的はそこから飛び降りるためだった。 「山崎君」 教室の戸を開けよとした僕は、後ろから思いがけず自分の名前を呼ばれ、慌てて振り返った。そこに立っていたのは和久井さんだった。そして僕に向けられた彼女の眼差しは、真剣そのものだった。僕の心は激しく動揺しながら、しかし一方で鮮やかに高揚もしていた。一言でいえば、スゲードキドキしてた。だって彼女はクラスのマドンナだったから。     
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