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元々はイタリア語であるマドンナ。それは「我が貴婦人」という女性に対する尊称だったものが、やがて絵画や彫刻など聖母マリアの美術表現を指す言葉に変わり、それが現代では多くの男性の憧れの対象となる女性を意味するようにもなった言葉だ。クラスの多くの男子がそうであるように僕にとっても彼女に憧れの存在で、つまり分かりやすく言えば、和久井さんはクラスで一番かわいい女の子なのだ。
「ちょっと話たいことがあるんだけど、いいかな?」マドンナは僕に言った。
そんな彼女に対し僕は彼女に対し沈黙でもって応えた……と言えばカッコもつくが、実際は全然、違う。僕は単純に固まっていただけだ、コンピューターでいうところのフリーズ状態だ。
でも、僕がそうなるもの無理はない話なんだ。何故って、和久井さんと同じクラスになって今日まで、およそ六ヶ月、僕と彼女が、こんなにも至近距離で互いを見つめ合ったことなど一度もなかったからだ。
僕の記憶が確かなら、この宇宙と言う空間に存在する僕と彼女と言う二つの遊星が最接近したのは、今をさかのぼること約三ヶ月前ことだった。
休み時間、廊下、友達とおしゃべりに夢中で前をあまりちゃんとみていなかった彼女の肩と、なるべく人と目が合わないようにってうつむいて歩く僕の肩とが、すれ違いざま本当に軽くぶつかった。それが僕と彼女が歴史上、最も近づいた瞬間だったのだ。
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