マイペースな彼女

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彼女は不愉快そうに目を細めて僕を見て、わからないとはっきり答えた。つわりみたいなものなの? と彼女は聞いてきたが、それこそ僕はわからないと半笑いで首を横にふった。 甘党な彼女が菓子を食すところはとても艶かしいと僕は思う。 薄い唇に挟まれて口内へと運ばれていく、クッキーに板チョコ、みたらし団子が羨ましい。毎度彼女にキスをせがんで、彼女は渋々といった風にそのわがままを受け入れてくれる。そんな僕に彼女は呆れていても、その表情はどこか嬉そうだと分かるから、僕は抱きしめてその呆れ顔をにんまりと噛み締めるのだ。 英語が得意な彼女は、外国人と引け目なく躊躇なく話す。青い瞳を見て話す。彼女の隣で僕が引け目を感じていても、知らずか知ってか構うことなく彼らと談話する。笑っている。マイペースな彼女が話終わるのはまだ先だと知っている僕は、それでも異国のハンサムボーイ達と彼女だけ残してその場を離れるわけにいかないから、終わるまで一人ひきつった愛想笑いを浮かべながら耐えるのだ。 彼女は時々、意味深長に愚痴る。親の溜め息が嫌いなのと、聞こえてくる度に悲しくなって嫌になると、つらいのはこっちよと。ある日、彼女は僕に、もしも親に見捨てられたらどうする? と聞いてきた。その目はしっとり憂いを帯びていている。そんな目で僕をみるもんだから、僕は僕らしく、一人で生きていくと、一人で生きていけるまで我慢して、育ててもらった分の金は返して親子関係をなかったことにすると、浅はかでひねくれた答えを彼女に返した。当然、彼女は貴方にできるの? と僕を小馬鹿にする。その彼女の笑顔にほっとして、ですよねと、馬鹿を認めて笑ってやるのだ。当時の僕は笑っていればいいと思っていたし、それが彼女のためだとも思っていた。 室内の暖かさにいきづらさを感じて、僕はまた窓を開けた。待ってましたと言わんばかりに肌の毛穴をこごえさせる冷たい風が、網戸を通って押し寄せてくる。僕はすぐに窓を閉め、消していた電気ストーブをまたつけた。ベットの棚に置いて充電していた携帯電話を持つと、保存していた数件ほどある彼女からのメールを、読んでは後悔しながら削除していった。
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