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なんとか足場のあるところまでやってきた。強い風が吹いている。まさに断崖絶壁だ。こんな場所にひとりで赴く女はいないだろう。 分かっている。 馬鹿げた意地だ。 だが、その意地に支えらえれて、ここまでやってきた。 それを否定することは、私の人生そのものを否定することになる。 ロープを手にしつつ、私は足場に両足を預けた。腕にかかっていた負担が一気に消失する。右腕も左腕もパンパンだ。明日は筋肉痛に悩まされることだろう。 注意深く周囲を見渡す。それはすぐに見つかった。 ごつごつとした岩の塊に挟まれて、夢にまで見た茸が生えていた。 間違いない。ネットで見た画像のとおりだ。 思わず私は両手を伸ばし、茸をむしり取りかけた。 そこでふと気づき、はやる気持ちを抑える。 まずは写真を撮らなければ。崖の斜面に、まるで苔のように張り付いている。その様子を納めなければ読者は満足してくれない。そして、その写真には私も入る必要がある。編集長自らが、命をかけて、こんな崖まで茸を取りに来た――その情熱が読者の心を動かすのだ。
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