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孤立
「現実的な話だとは思えませんね」
社内会議の場で、柿崎は言った。すらりとした長身のスポーツマン体形。ルックスも確かに悪くない。この男が配属されてからというもの、従業員の女子たちはどうにも浮足立っている。
『助けなど必要ありません』と私は会長の前で大見得を切った。それでもこの男は、<改革者>としてやってきた。そして私の居場所を次々と奪っていった。
私がニュースサイト「Full-lu」を立ち上げたのは、今から8年前のことだ。「アラサー・アラフォーの女性に向けたニュースサイトを立ち上げる」と言い放った時、同僚たちは困惑の色を隠さなかった。無理もない。情報リテラシーが高いとは言えない一般女性に向けて、ウェブで情報を発信するなど、当時としては狂気の沙汰だった。
それでも「Full-lu」は好調だった。スマートフォンの爆発的な普及を期に、圧倒的な支持を得ることができた。後からやってきた者たちが次々と類似サイトを立ち上げたが、それでも「Full-lu」の地位は揺るがなかった。
だが、それも去年までの話だ。
超大手出版社が女性向けニュースサイトの立ち上げを発表すると、読者はたちまちそちらに流れた。彼らにはノウハウと人脈があった。それは私たちがどれだけ望んでも手に入れることのできないものだった。資本規模こそ負けてはいないが、私たちには「歴史」がない。残念ながら私たちがターゲットにしている女性たちは、何よりも実績を重んじる保守的な世代だった。その時点で勝敗は、すでに決していたのだ。
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