孤立

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柿崎が難色を示すのも無理はない。実際、雲を掴むような話なのだ。 <食べれば10年若返る――そんな茸が、なんと都内の山奥に生えている> こんな噂話が流れるようになったのは、つい最近のことである。動画投稿サイトの怪しげなチャンネルや、品のない話で盛り上がる掲示板を中心に、静かなブームが広がっていた。 普段の私だったら、こんなものは歯牙にもかけなかっただろう。だが、今は追い詰められている。少しでも食指が動いたもには、積極的に喰らいついていかなくては。直感を信じるのだ。 あながち勝算がないわけではない。私には、東海大学化学生命工学部の名誉教授に、ちょっとした借りがあった。茸を持ち帰った際には、その名前を借りて推薦してもらおうと思っている。 茸の話を持ち出すと、案の定、従業員たちに失笑を買う羽目になった。 『奈津子さんももう終わりだな』 『運が落ちた』 『昔みたいな勢いはないよね』 そんなふうに、彼女たちが陰口を言っているのは知っている。 だからこそ、後に引けなかった。 文句以外に能のない連中の鼻を明かしてやるのだ。
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