山小屋の主人

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ひどく喉が渇いた。だが、ペットボトルの水は随分と前に飲み干してしまっている。山道の間に小川を見つけ、反射的に頭を突っ込んだ。ひどい味だ。腐った土の匂いがする。とても飲めたものではない。私はすぐに水を吐き出した。 再び歩き始める。山道はどこまでも険しい。自分が正しい道を歩んでいるかすら、定かではなかった。数分おきに「引き返そう」という考えが頭に浮かび、その度に打ち消した。 目を閉じて、柿崎の得意げな表情を頭に浮かべるとファイトが湧いてくる。 あの男にすべてを奪われるわけにはいかない。 履きなれないトレッキングシューズが、足のあちこちを痛めつける。右足の薬指と小指の間に、つよい異物感を覚えた。たぶん血豆だ。だが、痛みなどとうの昔に麻痺している。腰もふくらはぎも痛い。 だからなんだ。この程度、十数年前、2度目のヒッチハイク世界一周旅行で砂漠の岩山をあるいた時に比べれば、どうということはない。 そう自分に言い聞かせる。
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