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廊下の方に目を向けると、一人の女子が慌しくクラスに入って来て、僕の席の前で止まった。
「あんた、何で部活に来ないの!?もう、怪我は治ってるんでしょ?大会が近づいているのに何やってんのさ。」
彼女は、スポーツ科A組の山下星香。女子バスケットボール部のエースであり、バスケでのポジションはG。
クラスの半分が彼女の気迫に黙り込み、半分が彼女の可愛さにざわついていた。
かく言う僕も、目の前の彼女に見惚れていたのは内緒だ。
動揺を抑えつつ、声のトーンを下げて目の前の彼女に言う。
「山下さん、悪いんだけどこんな大勢が居る所で、この話は止めてくれないか?」
「一ヶ月も部活を休んで、復帰する気が無さそうだから、わざわざ皆の前で言ってるの。」
「どうしてなの?必死に練習してレギュラーを勝ち取って来たじゃない。スポーツ科が居る中で、あんたはめげずに頑張って来たのに..」
うちの高校のバスケ部は人数が多い方ではないが、スポーツ推薦で入学してきたスポーツ科が居る限り僕たちのような平凡な生徒は、日の目を見ることは中々無い。
彼女とは、あまり話す機会は多くなかったが、同じポジションとして頑張っていた僕に活を入れに来たのだろうか。
僕は、二ヶ月前に交通事故に遭った。優先道路を自転車で走っていた時の油断だった。
当時、練習で足を酷使し過ぎて疲労骨折の手前まで来ていた。足の痛みが突然襲って来た時に、車が飛び出して来てブレーキが遅れてしまった。
全治一ヶ月の骨折。僕の中で何かが欠落した気がした。
傍から見れば、骨折程度。しかし、やっとのことでレギュラーを勝ち取ったすぐの出来事だった。
心を鍛えるのは難しい。特に僕は人より精神面で強くなかった。だから怪我を理由にこうして治った今も部活を休んだまま。
でも、完全に諦めた訳じゃない。筋トレは少しだがずっとしてきた。要は心の問題だ。
いや、子供みたいに不貞腐れていたのかもしれない。
「最後に一つ言っておくね。」
「あんたのポジション、二年の横田に取られてるから。」
彼女は教室を去っていった。
一方、僕はその言葉を聞いて、何かが弾けた気がした。
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