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もう私はその女性と会うことはなかった。遠くに離れてしまったのだ。遠く離れてしまったといっても、お互いの家の場所が遠くなったということではなく、こころが離れてしまったのだ。
お互い大人になってしまったので、あの頃のことはすっかり過ぎ去ってしまった。風化の如く、と言ってしまえば、まあそれだけのことなのだが、そんな簡単に片付けてしまうような大人の当たり前の感覚が、私には冷悧というよりも冷血冷酷なものに思えて仕様がないのである。
その女性といっても、付き合ってたというわけではなく、付き合いは付き合いでも人付き合いといった、異性ではあるが、いわゆる友だちのような関係だった。そんな良き関係が大人になったというだけで失われてしまうのは本当に大きな喪失だ。大人になることの愚かな汚点のように思えてくる。
それほどまでにその女性は私にとって身近な存在だったのだ。
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