その少女

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 私の中学生の頃の学校生活は平々凡々としたものであったが、そんな中でもひとつ楽しみがあった。それは休み時間や放課後に、とある少女とばったり出会うことである。 「あっ、○○君!!」  その少女は私を見かけると、明るく人懐こい笑顔を見せながら、天使のような優しさで声をかけてくれる。私は最初はただなんとなくその少女のそんな様子に当たり前のように応対していたのだが、いつしか、その少女とのひとときを何よりも楽しみにしていた。今思うと非常に贅沢なひとときだったと思う。私はその与えられた贅沢に甘えるかのように放課後はよくその少女と一緒に過ごしていた。教室やそのベランダで他愛のないおしゃべりをしたり、図書室で一緒に本を読んだりしていた。  私とその少女は同じ小学校の出身で、出会ったのもその小学校だ。だが、同じクラスだったのは六年間の内二年間だけだった。同じ中学校に入ったものの、それ以降は一度も同じクラスになっていなかった。でもその少女は私を見かける度に、ものすごく好奇心のあふれるような、まぶしいくらいに明るく輝かしい様子で接してくれた。  反面、私は自分からその少女に話しかけることはしなかった。まして、その少女と一緒に過ごそうと思い立ったり、誘ったりすることすらなかった。今思えば、私はすっかりその少女の天使のような甘美な優しさに甘えきっていたのだ。  その少女は私を誘って一緒にひとときを共有すること以外は私に何も求めなかった。不器用な私は自分からうまく話しかけられなかったし、ちょっとした気遣いのひとつもできなかった。その少女はそういったことに優秀であったのに。  その少女のおかげで私の青春時代は開かれた。虚しい無常の時代を過ごすものだと思っていたが、それがまぶしいくらいに明るく輝かしいものとなった。私はその少女にいろいろなことを教えてもらった。理屈では語り尽くせない、人として成るとはこういうことなんだろうという、希望と幸福にあふれたその数々を。
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