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しかし、私とその少女の素晴らしいひとときは終わりを迎えた。中学校の卒業である。私とその少女は別々の高校への進学を決めていた。もうその少女に甘えきって、甘美なひとときを過ごすことはできない。それなのに私はその少女に気の利いた一言さえも言えず、そのまま私もその少女もそれぞれ別の新しい学校生活を送り始めた。もう休み時間や放課後にその少女とばったりと出会うことはないのだ。
後で知ったことだが、その少女は私の朴訥なところをすごく気に入っていたようで、それで見返りも求めずに私とのひとときを過ごしていたのだ。後付けになるかもしれないが、私もなんとなくその少女のそんな様子を朧気に察していた。二年間を除いて同じクラスでもないのに、明るい微笑みと優しい言葉をくれて、放課後には一緒にひとときを過ごしていたこともあるのだから、心の奥底で意識はしていた。お互いに意識はしていたはずである。
しかし、私もその少女もそれを言い出すことはなく、心の内にそれを仕舞って、昔からの馴染みの友だちとして日々を過ごした。そうすることで友だちとしての形を保っていたかったのかもしれない。もし言葉にして言い出してしまったら、お互いの心の内に罅が入って、この純真で素敵なつながりが壊れてしまいそうだったから。
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