0人が本棚に入れています
本棚に追加
中学校を卒業してからおよそ十年の時が過ぎ去った。例の少女のことを心の奥底で思いながらも、時はあわれ過ぎ去った。私は隣県の大学に通っていた四年間は故郷を離れたが、大学を卒業してからは紆余曲折を経て、故郷へ帰ってきた。帰ってきてからというもの、あのまぶしいくらいに明るく輝かしいあの頃と比べてしまうと、過ぎ去った後の故郷はどこか虚しく無常のものであった。
ある日のこと、何気なく街をぶらぶらとしていると、とある女性とすれ違った。その女性のおもかげは天使のように感じた。ただそう思っただけではない。その明るく優しい姿は私に大分懐かしい感情を蘇らせた。私はそれを感じて直ぐにその女性を二度見した。女性も私を二度見した。
「○○君。」
女性は私に声をかけた。女性は、私が中学生の頃に好意的に接してくれた、その少女であった。
「久しぶりだね。」
その少女は昔と変わることなく、まぶしいくらいに明るく輝かしい微笑みを見せながら、優しく私に声をかけてくれる。ああ、確かに中学生の頃の懐かしいその少女が今、私の前に確かにいる。私は嬉しくなった。
私とその女性はカフェに行き、あの頃のようにおしゃべりをした。お互いにいろいろ話したいことがあったので、会話は思った以上に弾んだ。その女性もすごく嬉しそうな様子を見せた。その日以来、私はその女性と時々カフェに行ってはおしゃべりをした。あの頃の輝かしい日々が大人になって帰ってきた。私は希望と幸福に満ちた日々を再び実感した。
しかし、そんな日々も長く続かなかった。何度かその女性と会ったものの、大人としての日々の流れの中で疎遠になってしまったのだ。輝かしく明るい日々は結局過ぎ去ってしまったものなのだ。
男女の友情は存在しないという大人の冷たい世間体もあったのだろうが、その女性が結婚して、そして離婚をしたという話を風の噂で聞いたのは、疎遠になった後だった。私からその女性に話しかけていれば、何かが変わっていただろうか? 何を言っても、もう今となっては虚しい谺である。
私はもう、その女性と会うことはなかったが、その女性が私にもたらしてくれた、まぶしいくらいに輝かしく明るい日々と、その希望と幸福だけは、どれだけの時が過ぎ去ってしまっても、私は今も忘れない。それほどまでに心に深く残っている。
最初のコメントを投稿しよう!