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最初の一月が過ぎる頃には、学内の半分以上は回り終えていて。特に行く当てもなくなっていた僕は、職員室で昼食を済ませて余った時間を有効利用しようと学内の図書室へと向かった。
「へぇ……」
足を踏み入れた僕を待って居たのは――高校の図書室とはまるで思えない程豪華な場所だった。カウンターは綺麗に磨かれた高価そうな木材で、キラキラと天井の光を反射している。本の貸し出し処理は全て機械で行われていて、司書をしているのは妙齢の女教員。
「あら、土佐先生。図書館をご利用ですか」
「木嶋先生……。え、えぇ、お話は伺っていましたので、少し覗いてみようかと」
赴任してすぐの頃から、いろいろと世話をしてくれた木嶋先生。自分が担当する前は、現国、古典の両方を受け持っていた人だった。この場所のことを教えてくれたのも、この先生で。いつか余裕が出来た時に顔を見せねばと思っていたのである。
ついでにここならば、ゆっくりと時間を潰せると思っていたのだけれど――
「学校の図書館といえば、もう少し落ち着いた雰囲気を想像していたのですが」
「貴方たちより前の世代だと、こういう図書室は珍しいわよねぇ。まるで市や県の図書館みたいで。新校舎へ図書室を移す際に、設備も一新しようって話が出てね。こんな形になったのだけれど……やっぱり本を読むのには、落ち着かないかしらね」
――確かに目にはいいのかもしれない。けど、自分にとってはどうにも居辛い空間だった。図書館にいる生徒たちを見ても、勉強の場所に使っているのが殆どで、読書の空間として利用している者はあまりいない。そういった意味でも、僕は"異質”になる勇気なんて持っていなかった。
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