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「――先生も読まれたんですかっ!?」
「――っ!? あ、あぁ――」
一人で本を読んでいた時の雰囲気とはまるで変わって、花の咲いたかのような笑顔でこちらに詰め寄ってくる。余程、同好の士を見つけたのが嬉しかったのだろうか。
――それもそうだろう。表紙もタイトルの無愛想、大人が読むのならばともかく、女子高生が手に取るようなものではない。一度読んでしまえば、面白さに嵌ること間違いなしなのに。それなのに、語れる友人がいないというのは……それはそれは、もどかしいことだろう。
「ずっと誰かと、この作品の話をしたくて――」
そんな彼女の勢いに押され、気が付けばつらつらと会話をしていた。他の生徒も、司書の先生もいない、自分と彼女だけのこの空間で、図書館という静寂に包まれるべき空間で、楽しく談笑していた。
「私、この作品が大好きで大好きで――。何回も読み返しながら、完結するのを待っているんです」
「読み返し――って、ネタバレとか気にしながら話す必要無かったのか。……?」
――『完結するのを待っているんです』?
「完結なら今年しただろう? 二十七巻で。うちの図書室にも――新校舎の方の図書館にもたしか入っていた筈だぞ?」
あまり目立つ場所ではなかったけれども、一瞬でも目に入れば分かる背表紙である(もしかしたら自分だけかもしれないけど)。読みたいのならば、新校舎で借りればいいんじゃないかと、そう言うと――
「新校舎……私、あまり向こうの方には行きたくないの。こっちの方が落ち着いて本が読めるから。本を読むなら、こっちの図書室の方がいいから」
どうやら、彼女も自分と同じ感性の持ち主だったらしい。そのことを少し嬉しく思う。しかし――借りるだけ、利用するだけも嫌ときたか。自力で買い揃えようにも、学生には少し手の出しにくい金額ではあるし、借りないわけにはいかないだろう。
「諦めるしかないのかな……」
「……諦めるだなんて、そんな勿体ないこと言うな。明日も置いてあれば、僕が借りて来てやるよ」
自分が新校舎の図書室から借りて、彼女に読ませれば問題ないのだろう。我ながら名案だと思ったのだが――
「……又貸しはマナー違反ですよ、先生」
そんなことを言われてしまった。
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