2人が本棚に入れています
本棚に追加
昨日の今日で彼に会いづらい気持ちもあったけれど、残された時間も僅か。悔いは残したくないから、今日も朝から彼が来るのを待つ。校門まで一緒に歩く時間は十五分にも満たないけれど、私は出来るだけ彼と一緒に居たいから。
「おはよ!誠也君。あ、今日は寝癖直ってないねー。」
「ああ。起きるの遅くてな。時間なかった。」
今日も彼からの、おはようは無しっと。別に気にはしてないけどね、むしろ彼から爽やかな返しが来たら驚きでひっくり返ってしまうかも知れない。そう言えば彼が笑ってるところを見たことが無い。彼が友達と楽しく話している時も終始不愛想な顔をしていたのを覚えている。そもそも彼は話していたのだろうか、取り巻きが話していただけかも知れない。
それほど彼の本当の姿は謎に包まれている。
「じゃあ、またな。」
今日もあっという間に、校門まで着いてしまった。嫌いだった上り坂も、今だけもっと長くなれば良いのになんて思ったり。彼が校門から下駄箱のある校舎まで一人で歩いて行こうとする。
私は他人の目なんて気にしない。だって恋は盲目の病だから。
「なんで誠也君、先に行っちゃうのさ。」
彼の腕を取りこちら側に引っ張る。人生初の男の子と腕を組んでいる状況に私は違う意味でハイテンションになっていた。緊張と興奮が入り混じる謎の感情が芽生えて行く。
(うわ、みんなこっち見てるよ。)
「おい、良いのか?」
「良いも何も、私ら付き合ってるじゃん。」
「まあ、お前が良いならいいけどさ。」
彼もどうやら満更じゃ無さそう?と思ったら鼻で笑ってるし。何ですか私のペタンコな胸じゃお気に召しませんか。はあ、自分で言っててかなりショックがでかい。
「いいと思うぜ。」
何が良いのだろうか。今のどこに彼の気にいるポイントがあったのか。
私の限定的彼氏である、坂柳誠也君はどうやら私が初めての彼女らしい。じゃあ今の少し口角が上がった表情を見た女子は私が初めてかも知れないと、一人で盛り上がっていた。
内心の盛り上がりは、教室に入ることで急激に冷えて行った。それは勿論、影の薄い私がクラスいちのイケメンと腕を組んで登校してきたのを見られたからだ。
「まあ、そういうことなんで。よろしく。」
私が何かを言う前に、教室に居る生徒に向かって彼は言い放った。
最初のコメントを投稿しよう!