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春の嵐が吹き荒れていた。
まるで私の背中を強引に押すかのように、轟轟と風が吹き桜の花びらを散らせていた。
私は今この瞬間から夢を見ていたんだ。
「なんだよ、ハナシって。こんな所にわざわざ呼び出してさ。」
そんなぶっきらぼうに話しかけてくる彼は、先ほどの私が勇気を振り絞って呼び出した相手、坂柳誠也君。彼はクラスの誰もが認めていると言っても過言ではない程のイケてる男子。強気な態度の裏には隠れた優しさを持つと言われている彼に惚れてしまう女子が多発しており、告白を毎日のように受けているのだとか。
まさか私もその一人になるなんて考えもしなかった。だってイケメンなんて、中身が伴っていない腹黒男、そう決めつけていたから。
その決めつけが崩れ去った事件がつい先週。つまり私が彼を好きになってから一週間しか経っていない訳だが、そんなことは関係無い。
だって私は誰よりも彼を好きだと言うことは確かだから。
「手短に言うね。私は坂柳君が好きな訳だけど、付き合ってくれたりする?」
目の前の男子は、大人しい女子や話の長い女子は嫌いだと言うことを私は良く知っている。それくらいの情報は既にリサーチ済み。なんなら彼の誕生日から好きな食べ物、小学生の時に好きだった担任の先生の名前まで知っている。
こんな脳内を見られたら友達すら無くしそう・・ってのは重々承知の上。これが私が誰よりも彼のことを好きだと言う根拠なの。最早自分が怖いとまで思えてくる。
(恋は病だからね。)
さて彼の返事はどうだろうか、二分くらい悩んだまま彼に見つめられている私の心臓はそろそろブレイカーが落ちそうだ。言うまでも無いけど、告白の言葉は演じた上で出て来た言葉。当の私は、もっとお淑やかだから告白すら出来るか怪しい。
「ああ、じゃあ条件付きで良いか?」
「条件とは?」
「この桜が散るまでの間、お前と付き合う。その間はなんだってする、その代わり桜が完全に散り終わったら、俺とお前の関係は終わりだ。」
思いがけないその答えは、私の予想を超えていた。演じていた私がいなくなる、その前に出てきた言葉。
「じゃあ、今日からよろしくね!誠也君!」
いつもは来ない高校の校舎裏、そこに咲き誇る満開の桜たち。一本の桜の木の下で、私の初めての告白が終わり、初めての恋の物語が始まった。
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