ミコとモコ

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 さて、高校卒業を機に、親元を離れて早や十年。私はずっとひとりで暮らしてきた。  今住んでいるアパートは海のそばにある。  女にしては珍しいかもしれないが、釣りを趣味としている私である。この部屋は最寄りの釣り場まで徒歩三分という素晴らしい立地の物件なのだ。  昨年の秋、不動産屋のお兄さんと初めてこの場所を訪れた時のこと。 「海を眺めて暮らすのも素敵ですよネェ~」  などと乙女チックなセリフを吐きながら、 「おう、ここなら毎日釣りに行けるではないか! うはは」  と、心の中で高笑いをしていた私であった。  築三十八年と年季の入った建物ながら、内装はそれなりに小綺麗な2DKの部屋は、女のひとり暮らしに充分過ぎる広さ。田舎なので家賃も安い。何よりその天国的ロケーションが気に入って、私は即断即決で入居を申し込んだ。  薄給に喘ぐ貧乏女子にとって、魚釣りは趣味と実益を兼ねた生活の手段である。  このパラダイスに引っ越して以来、仕事が終わって帰宅するやいなや漁港の防波堤に突撃、晩御飯のオカズを確保してやらんと鼻息荒く竿を振っていた私。  そのうち常連のオジサマ達ともすっかり仲良くなり、よく釣れるポイントを教えてもらったり、時には釣果の御裾分けをいただいたり、随分お世話になっている。  釣り師としてまだまだ未熟者の私であるが、いつかびっくりするような大物を釣り上げ、先輩諸氏に恩返しをしたいものだ。
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