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独身男子の成れの果て
沢渡誠(65歳)独身は、途方に暮れていた。
両親は既に他界、兄弟も無く、親戚の縁も薄い。
妻も子も無く、一人つつましく働き、納税し続けた結果に、今、打ちひしがれていた。
人生百年、などと、長寿を祝うかのような事をへらへらと広報しつつも、定年年齢は60から65、そして、誠が65になる少し前に、70まで引き上げられ、当然のように年金支給年齢も併せて伸ばされた。
予想していた事ではあったが、団塊ジュニアで人数の多い世代生まれの誠は、親世代に搾取されるだけ搾取され続けた。
そして、今、まさに自分が、高齢者に一歩さしかかろうとした瞬間に、『高齢者の定義を変える』という荒技によって、老体に鞭を打ちながら、働く事を余儀なくされていた。
四年制大学を出てはいるが、新卒時期は就職氷河期の真っ最中で、かろうじて入社した会社はリーマン・ショックのあおりをくらって倒産した。後、非正規雇用で職業を転々としたものの、業績悪化によるリストラや、会社本体が無くなるなど、誠の人生はまさに苦難の連続だった。
しかし、心根の頑強さゆえか、体を壊さず、この年齢まで何とか生き延びる事はできていた。
『生かされず、殺されず』
そんなフレーズが、ふと、誠の脳裏をよぎる。
幸いにして、年齢の割に体力はある方だが、働こうにも、特別なコネも、資格も、能力も無い。人手不足といいつつも、接客業では強面の顔を遠回しに敬遠され、肉体労働は年齢ではじかれる事が増えてきた。
生活保護を申請するか、首をくくるしか無いと思った誠の前に、今、そのポスターは、光り輝いて見えた。
藁にもすがる思いで、誠はスマートホンのメッセンジャーアプリを起動し、迷楼温泉温泉組合へメッセージを送った。
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