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とーりゃんせ
「とーりゃんせ、とーりゃんせ」
天宮優奏は小さく歌いながら、いつもよりも多いスパゲティーを茹でる。
いつもならば数分掻き混ぜた後は放置して、タイマーに仕事を任せているのだが、今日は違う。特にアルデンテにしようとか、そういう難しいことをしようとはしていないのだけれど、それでも料理をしているっぽい形を取りたいのだ。
『普段とはちがう小難しいことをしようとせず、いつもと同じ料理でいいよ』
一緒にスーパーで買い物をしようとした時に言われた言葉。なんとなく遠回しに、貴方はいつも料理をしていないですよね、と言われたようなものだけれど、正直ありがたかった。
初めて料理を振る舞うのに失敗はしたくないし、急に決めたことだから料理の練習なんてしていない。だから、今日はいつものスパゲティーにさせてもらった。
「行きはやだやだ、帰りは嬉し」
こわいながらも、
「とーりゃんせ、とーりゃんせ」
茹でる時間は9分。
あと少しだろうと勘がいい、タイマーを覗こうとすれば。
「それ、なんか歌詞ちがわない?」
一昨日やっと布団を外した炬燵――テーブルの前に座りながら、宇津保慎司がツッコミを入れた。
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