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彼の周りには一つ、二つ小説の山があったけれど、それは少し端へと移動され、テーブルの周りはちゃんと座れるようになっている。
彼が来ると分かっていたなら掃除しておいた、なんて理由は全国共通なものだと思うけれど、まさか自分がそれを思う日が来るとは思わなかった。
「あー……ちょっとオリジナルにしてるんだよね」
「オリジナル?」
「そうそう」
――――ピピピピピ、
頷くと同時にタイマーが鳴る。
ちょっと待ってて、と天宮は言い、タイマーを止めてスパゲティーをザルに入れお湯を抜き、そして取り分ける。自分への配分はいつもより少な目にしたけれど、きっとそんなことを気にする彼ではないだろう。それでも、そんなことをしてしまうのが女心というものなのだと理解してほしい。
「とうりゃんせ、ってさ、本当は『行きはよいよい、帰りは怖い』っていう歌詞でしょう?」
天宮は取り分けた麺の上に温めておいたレトルトのボロネーゼをかけ、お皿を片手ずつ両方持って行く。
途中、手伝うために立ち上がろうとする宇津保を「大丈夫」と制し、テーブルに乗せたのち、飲み物やフォーク、スプーンなどを用意する。
狭い一人暮らしの部屋なので、そういう準備が楽なのは良い点である。
天宮は全てを揃えてから彼の正面でなく、右斜め前に座った。
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