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「でも私はね、仕事に行く前とか、帰った後とかに歌うから『行きはやだやだ、帰りは嬉し』なんだよね」
「なるほど」
優奏らしい、と言い、両手を合わす。そして一緒に「いただきます」と軽く頭を下げた。
これは付き合う前から食事をする時の恒例で、まだ話したことはないけれどお互い食事をする前は『いただきます』と手を合わせるのが常だったみたいだ。だから二人で食事をする時は特に疑問も持たずに手を合わせていた。
「ん、美味しい」
「そう? レトルトで申し訳ないけど」
一口食べた宇津保は無表情でも嬉しそうな声音で言うのに対し、苦笑しながらそう返せば「べつに」とフォークにスパゲティーを巻きつけながら言う。
「優奏がいつも食べてるものとか気になるし」
「そういうもん?」
「そういうもんです」
うんうん、と頷く彼はどこまでも満足げで何だかこちらまで嬉しくなる。今度こそは美味しい手料理を振る舞おうと決心する天宮だ。もちろん、部屋も綺麗にして。
今日宇津保が部屋に来ることになったのは本当に急なのだ。
けれど別に宇津保が部屋に行きたいと言ったわけでもなく、ただ単になんとなく天宮が思いついて誘っただけである。
いつもファミレスじゃお財布が痛い、と。
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