102人が本棚に入れています
本棚に追加
よくよく考えれば次に一緒に食事をする時にどちらかの家にすればよかったものの、思い立ったが吉日。天宮は『うちでご飯にしよう!』と言い出し、宇津保の手を取った。
最初は迷惑になる、別の日にしよう、女の子の部屋に行くのも気が引ける、と彼は渋ったが、一度決めてしまった彼女の意見を覆すのは無理だと思ったのか、溜息をついてその手を握り返した。
それからスーパーで買い物うんぬんかんぬん、になるのである。
「そういえば、さっきの童歌の話しだけど」
「ふぉ?」
「行きはやだやだ、帰りは嬉しってことは、仕事に行くのはイヤなわけだ」
「…………」
ゴクン、と。
口に含んでいたスパゲティーをゆっくり飲み込んでから、コップを取る。そしてそれもまたゆっくりお茶を口に含み飲み込んだ。
「まあ、えっと……はい」
そうだ、彼氏になったとはいえ、彼は仕事場の上司なのである。
彼のオンオフの差が激しいため、別の人間のように思っていたけれど、それでも上司の宇津保と彼氏の宇津保は一人なのだ。
天宮は少し頭を下げ、やばい、と瞬きを繰り返していれば。
「俺も仕事だけを考えたら『行きはやだやだ』だけど―――」
彼はそんな天宮の頭をそっと撫でた。
「優奏に会えると思ったら『行きはよいよい』だけどな」
言われた瞬間、顔から火を噴くかと思った。
最初のコメントを投稿しよう!