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頭を撫でられながら天宮は、下を向いているのに逃げるようにギュッと目を閉じて「私も、」と小さく呟くように言う。
「私も、宇津保さんに会えることを考えたら、まぁ『よいよい』と考えても、いい、かな?」
そう考えるのならば『行きはよいよい、帰りはやだやだ』だ。
彼といる時間はとても大切で愛おしくて、でもこうやって恥ずかしいことも言うから、なんだかくすぐったくて。言い争いもするけれど、それでもその時間は何よりも大事なもので。
今日だって彼が帰ってしまうことを考えたら、寂しくてたまらない。
「優奏、」
「ん、」
頭を撫でていた手が頬へとやってくる。
いたずらに耳にも指を引っかけるのだから、本当に意地悪な人だと思う。
「優奏、顔上げて」
「……むり」
絶対顔が赤いからイヤだと拒否すれば、照れてることは知ってるから、と彼は言い、
「そんな照れてる優奏とキスしたい」
真っ直ぐに気持ちを伝えてくる。
(あーもー、この人はっ)
別に何か策を練って言った言葉ではないのだろう。だって甘く囁くような言葉なのに、普通に当たり前のように言ってくるから。
ここで百戦錬磨のモテ男みたいに言ってくるのであったら天宮もそんな彼を拒絶できただろうに。
「……いじ、わる」
天宮はゆっくりと顔を上げる。
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