あとどのくらいの

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あとどのくらいの

「まま、おてがみっ。きょうはひこうきのかたちにしてみたよっ」  娘が字を覚えてから今日までどのくらいこの言葉を書かれた折り紙手紙をもらっただろう?  「あけてあけて」ってせかされて手紙をゆっくりと開く。しかし実は読まなくても書かれている言葉分かっている。だって、手紙はいつも同じ言葉が綴られているのだから。  『ままだいすきだよ あいより』  夫も娘から同じだけの手紙をもらっていて、2人に宛てられた手紙は旅行先で買った文箱に大事にしまってある。  娘は3月に幼稚園を卒園した。ついこの間、園庭に咲く桜の木の下で真新しい制服を着て記念写真を撮ったと思ったのに。  そして4月、さくらの花びらが舞う中、真新しいランドセルを背負って小学校の門をくぐった。娘はこれから毎日1人で歩いて学校へ行く。私はもうあの小さなもみじのような手を引いて幼稚園のバスへ送ることはない。通園中は面倒くさいと思ったりもしたけど、今ではものすごく淋しく思っている。  きっとこの手紙も娘が大きくなっていくにつれ減っていって、いつか「だいすき」すら言ってもらえなくなるんだと思う。それどころか、成長して友達や彼氏と過ごす時間が増えていき、家族で一緒に過ごす時間が少なくなっていくことは自分の経験で分かっている。  それまでの時間。  これからあとどのくらい「だいすき」をもらえるだろうか。  これからあとどのくらい一緒に過ごす時間が持てるだろうか。  今、この一瞬すらどれだけ幸せな時間を過ごしているかということに私は気づき、そして心に刻まなければいけない。 「じゃあぱぱにもあげてくるねっ」 「あ、ちょっと待って。あい」 「なあに?」 「ママもあいのこと大好きだよっ」  今日のこの、振り返って満面の笑みで返事したその笑顔と一緒に。
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