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「これ、借りるぞ。」
「あ!お前、自分の着ろよ!」
「いいじゃねぇかよ、どうせ着てないんだから。」
「寒い、今から着る!」
「はいはい、わかったわかった。」
「わかってねぇーだろ!」
幼馴染の伸びた手を振り切って、パーカーを羽織る。
瞬間、こいつの匂いが香ってきた。こうする事でしか、こいつを近くに感じられないのは、色んな壁があるからだ。
「お前の裏起毛だからあったかいんだよ。」
「お前も買えばいいだろ。」
「そのうち買いまーす。」
「絶対買わないだろ。」
その通り。絶対買わない。買ってしまえば、こうして借りることが出来なくなるんだから。
自分でも気持ち悪いと思う。けれど仕方ないんだ。こいつをそういう対象として見ていたことに気付いてしまったんだから。
それに気付かない鈍いこいつは、いつものように不貞腐れながらもパーカーを取り返すことなく、諦めて手に持っている雑誌に目を落とす。
それを見届けてから、同じように漫画の続きを開いた。
居心地がいい。
壊したくない。
こいつが、優しいから。
そして俺が、ずるいから。
ずっとこの距離感でいたいんだ。
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