猫からの贈りもの

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 祖母がカンタと呼んでいたその黒猫を見かけたのは三度目だった。野良猫である。先月亡くなった祖母の話では彼はここの庭を縄張りにしていてよく見回りに来ているらしい。しかし私は今日驚いた。縁側に座る私と一メートルほどの距離をあけて庭を通る彼、カンタがまるで家の中で飼われている猫がふらっと外へ出たみたいにつやつやした光沢のある毛なみをしていたからだ。近寄って触ってみようかと思ったくらいに、それは見事な、手触りがよさそうな黒檀の毛なみであった。以前は砂埃まみれの見るからに野良猫といった感じだったのに。彼はこれまでと同じコースで庭の端っこを滑らかな足取りで歩み、やがて左に折れて静かな風のように壁の向こうへ消えてゆく。何があったんだろう?それともあれは別の猫なのだろうか…いや私は確信できる、体格も顔つきもあの猫はカンタに違いない。  この家は来年から叔母が暮らすことが決まっていて、それまでは私たち島崎家の人間が管理を任されている。といっても実際に行き来するのは私だった。父も母もわずらわしいようでまったくこの家と関わりを持とうとはしない。今日は水曜なのだが高校を早退しこの祖母の家に来てまったりする私だった。今日は泊まるつもりで来ている。時刻が正午を過ぎたころ、居間でお茶を飲んでいると磨りガラスの向こうに黒い影が映った。縁側に乗ったその形からいって先刻姿を見せたカンタに違いなかった。影は素早く縁側を下り姿を消す。私は椅子から立ち上がり、サッシを開けて庭を見渡した。右ての庭の入り口近くにカンタがいた。ぴんと延ばした前足を揃え地面に腰を下ろした格好、いわゆるエジプト座りで彼は私を見ている。私は縁側に目を落として気づいた。(ん? ビー玉?)そこには青い玉が置かれてあったのだ。つまんで拾いあげるとびっくりした、小さいのに鉛かそれ以上に重い。恐いくらいだ。カンタに視線を戻すと彼はまるで私が玉を拾うのを見届けて満足したかのような態度で腰を上げ、右奥に去っていった。  
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