虚無の日々

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 春の終わり。夏が忙しく季節の扉をノックしだす頃。ゆるい入道雲の描かれたハガキがアパートのポストに届いていた。それは中学の同窓会があることを知らせるものだった。たったそれだけの内容であるはずのハガキには、昔の記憶をいかにもと言うほどにしみじみと思い返してみたり、差出人自身の最近の暮らしぶりだったりが綴られていた。その人は中学生時代に委員会活動で花や植物の世話をしていたが、それがどうやら周りの男子生徒から見れば女々しかったらしく、ひどくからかわれていた。しかし、彼の草木に対する愛情は認められ、街の景観づくりに貢献したと市長から感謝状を贈呈されるほどにまでなった。そんな彼にはどうやら先月に入って子供が生まれたらしい。予定日より少し早くて心配だったが、今では母子ともに無事に退院し、家に帰ってきて育児に大奮闘な毎日を送っているようだ。ところで肝心な同窓会の案内に関する内容は、日時、開催場所、参加費用などの最低限の情報のみで、雑に縮ませたような字体でハガキの隅に三行程度に押し込むようにして書き記されていた。  ちなみになのだが、私はそんな彼のことも、彼が愛でた花や植物のある中学校も知らない。更に言えば、私がどれだけこの同窓会への参加を願ったところでそれは叶わない。私はこの同窓会の行われる中学校の卒業生でないにうえに、つい先週この街のこの部屋に越してきたばかりの、フリーターと体のいいように名乗るただの浮浪者のような者なのだから。
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